天草のRUN! 天草上島その1

大姫戸隧道

■ 嗅 覚 ■

熊本市内で仕事をしていた僕にある日仕事が舞い込んだ。

「天草行ってこい」

上司が行けと言えば行くのがジャパニーズサラリーマンである。
片道1時間半かかるけど段取りをして出発。

目的地は上天草市姫戸町。天草上島である。

九州本土から橋を渡り、国道266号を走る。
正面に見えるのが目的地あたり。

天草は全体的に南側が急斜面、北側が緩斜面の「へ」の字をした地形、
高校の地理で習うよね「ケスタ地形」である。

このケスタ地形こそ、天草を「隧道大国」にした張本人なんである。


さて、現場で合流した業者さんにちゃっちゃと指示を出したら、何となく仕事が終わってしまったので、みんなに缶コーヒーでもと、僕は現場を離れ、自販機を探して国道を走ってみた。


天草上島は北部沿岸を国道324号、南部沿岸を国道266号が走る。
ずいぶん便利に見える。見かけ上はね


さっき上で書いたケスタ地形。

天草の場合は地層が北に向かって傾いているのでそういう地形になってしまうのだが、こうなると南側は崖崩れ、急斜面のオンパレードになる。

上の1枚目の写真。
左側が南になります。

南が急崖、北がのっぺりとした地形なのがわかると思う。


で、その急な地形の南側を走る国道266号。
岬を海沿いにぐにゃぐにゃと迂回しながら走る国道であったが、近年になってトンネルが沢山バイパスとして掘られている。

まあそのトンネル群は新しくて、あんまり当サイトの方針にそぐわないので割愛するとして、

まあ僕はそのとき左図の姫戸トンネルのあたりをウロウロしていたわけだ。



自販機を探してただけなのだ。




写真は姫戸トンネルの東側、姫戸町姫浦地区。



姫戸トンネル 姫浦側坑口
ひめどとんねる 国道266号
熊本県上天草市姫戸町姫浦
竣工 1983年(昭和58年) 延長 377m




さっき、近年になってって書いたけど、もう30年位前になるんだよなあ…。



で、




トンネルの手前で、この道に気がつかない程度の嗅覚では
廃道者は名乗れない。

僕の目は現道なんぞ目もくれず、こっち側にロックオンされていた。
(※仕事中です)





入っていくと古いアスファルト敷きの道が山に向かって続いている。
半分草むら化した立派な廃道だ。
僕の嗅覚は鋭敏に研ぎ澄まされ、
この先に99%の確率で「アレ」があることを感知していた。
(※仕事中です)





アレありました。

廃道の先はコンクリートの無機質な壁と、それに付随した…えっと
なんだこれ?へんな空気ダクトみたいなヤツ、が立ち塞がっていた。





コンクリート製のポータルを持つ廃隧道は、厳重なる立ち入り禁止措置が取られ、
その後倉庫か、穀物の乾燥機か、なんかそんな感じに使われているようだった。

事前情報もなく、ただ自分の嗅覚だけでここまで来た僕の胸は高鳴っていた。
(※仕事中です)


あっち側に回ってみよう。



姫戸トンネル 二間戸(ふたまど)側坑口

現道トンネルを抜けて反対側に回ってきた。
左側にちゃんと脇道がある。

もちろん入っていく。




こちらもまあ、なんというか民有地な感じでいろんなものが置いてある。




隧道は向こうに比べれば簡易的な扉だが、
「古いトンネルの美」という、一般人にはとても理解されがたい
アーティスティックマインドを持っている自分には邪魔なものでしかない。
まあ大概大きなお世話だが。



扁額もきれいに残っている。
というかハメコミ式じゃなくて直接彫り込んでる感じだ。

というか、ここでやっとこの隧道の名前が分かった。

大姫戸隧道
おおひめどずいどう 国道266号(旧道)
熊本県上天草市姫戸町姫浦
竣工 1936年(昭和11年) 延長 288m

ずいぶん立派な名前である。

それもそのはず、この国道266号が国道指定されるはるか前、
この当たりは「七曲道路」と呼ばれ、海岸沿いをぐにゃぐにゃと
走る狭い道だったそうで、それを国道としての規格(勾配、曲線)に
改良するため、難工事の末に完成した期待の隧道の一つなのだ。

ちなみに天草地域のその後国道266号となる路線(上天草市〜天草市牛深)の全長が当時約100km。
それをを大姫戸隧道を含めた5つのトンネルでパイパスさせたら
全長が10km以上短くなったってくらい元々の道がひどかったってこと。

この姫浦区間の工事だけでも予算額をはるかに超える
11万円という工費がかかった。

どのくらいの価値かはいまいちわからないが、




このカッタイ岩盤を掘るのは苦労したと思うよ?

ちなみにこの地層は「姫浦層群」と呼ばれ、地質業界では
「アンモナイトの化石がジャンジャン出てくる」ことで有名。
(※いいこと聞いたとか言ってハンマー振り回してたら怒られるよ)

とりあえず何も分からないまま嗅覚のみで旧隧道を発見した僕は
「もしや天草はすごいところでは…」との予感を抱きつつ、
ビッグ姫戸隧道を後にした。









ちゃんとコーヒーを買って。


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2012.7.8


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